春を感じさせる日本のポップ・ソング・クロニクル 1977-2020

春なのでそれにちなんだ曲を聴くには絶好の季節ということで、個人的に好きな30曲を選び、発売日順に並べてみた。日本の場合、新学期が4月なので別れとか出会いとかそういう要素もあって、春をテーマにした曲が多かったりするのだが、それに加えて桜ソングの大量発生というファクターもある。ということで、春の曲はたくさんある訳だが、あくまで個人的な趣味や嗜好が強く反映しているのと、いまの気分で選んでいるだけなのでたとえば明日やるとまったく違った内容になっている可能性は大いにある。

マイ・ピュア・レディ/尾崎亜美 (1977)

「あっ 気持ちが動いてる たった今 恋をしそう」というところが印象に残る資生堂のCMソング。化粧品各社がCMソングに力を入れはじめ、それがヒットチャートにも影響しはじめたのがこの頃だろうか。個人的には苫前から旭川の小学校に転校するタイミングで、森田公一とトップギャラン「青春時代」やピンク・レディー「カルメン’77」などがヒットしていた。

春の予感-I’ve Been Mellow-/南沙織 (1978)

「春に誘われたわけじゃない だけど気づいて」というところがひじょうに印象的な、やはり資生堂のCMソング。前の年に「マイ・ピュア・レディ」をヒットさせた尾崎亜美が南沙織に提供した曲で、大人っぽくて上品な感じが魅力的である。

微笑がえし/キャンディーズ (1978)

キャンディーズが解散する少し前にリリースされたシングルで、結成以来、初のオリコン週間シングルランキング1位を記録した。一緒に暮らしていた恋人同士が別れて引っ越しをするというストーリーを、グループの解散に重ね合わせた歌詞が素晴らしく、過去のヒット曲のタイトルも散りばめられている。「おかしくって 涙が出そう」というフレーズに象徴される、爽やかで前向きなお別れが表現されている。

君は薔薇より美しい/布施明 (1979)

カネボウ化粧品のCMソングで、作曲・編曲をゴダイゴのミッキー吉野が手がけている。ゴージャスなサウンドとエンターテイナー然としたボーカルが絶妙にマッチし、久々のヒット曲となった。演奏にもゴダイゴのメンバーが関わっている。

不思議なピーチパイ/竹内まりや (1980)

資生堂のCMソング。ニューミュージックとアイドルの中間のような売り出し方をされていた女性アーティストが当時は多かったような印象があるが、竹内まりやもそんな感じだったような気がする。この年の春はカネボウが渡辺真知子、ポーラが庄野真代と、化粧品大手3社のCMソングがいずれも名前のイニシャルがMのニューミュージックの女性歌手によって歌われたことが話題にもなった。

春咲小紅/矢野顕子 (1981)

YMOのライブでキーボードを弾いたり、時々、ユニークな歌声を聴かせたりしている人としても知られるようになった矢野顕子によるカネボウ化粧品のCMソング。作詞が糸井重里で作曲がYMO(クレジット上はymoymo)。この年、神戸ポートアイランド博覧会が開催されたことから、歌詞は「春先、神戸に見にきてね」とのダブルミーニングなのではないか、というような説もあったような気がする。

赤いスイートピー/松田聖子 (1982)

ここにきて、やっと化粧品のCMソング以外の曲である。松田聖子の数ある楽曲の中でも特に人気が高く、松任谷由実(クレジット上は呉田軽穂)が初めて提供した曲でもある。松本隆の歌詞に登場する男性はシャツにタバコの匂いがついているタイプだが、付き合ってから半年経っても恋人の手さえ握らない。この辺りがとても上手いな、と当時、思ったものである。この時代、タバコに匂いはまだ大人を象徴するポジティブな意味合いを持っていた。「気が弱いけど素敵な人」と「同じ青春 走っていきたい」という歌詞は80年代に流行した少年向け恋愛コミックの世界にも通じるものであり、今日の感覚から見ると一方的に男目線すぎるようにも感じられる。

い・け・な・いルージュマジック/忌野清志郎+坂本龍一 (1982)

RCサクセションとYMOという当時のサブカル少年少女達にひじょうに人気があった両グループから特に人気の高いメンバー同士が夢の共演ということで大いに話題になったばかりではなく、いずれもグループでは達成したことのないオリコン週間シングルランキング1位にまで輝いてしまった。そして、資生堂のCMソングである。

グッドバイからはじめよう/佐野元春 (1983)

大滝詠一のナイアガ・トライアングルに参加後、アルバム「SOMEDAY」でブレイクした佐野元春が初のベストベストアルバム「No Damage」に先がけてリリースしたシングル。それまでのビートポップ的な作風から一変し、オーケストラを配したバラードとなっていて、「終わりは はじまり」というフレーズは春の気分にもよく似合っていた。ベストアルバムはオリコンで初の1位を記録して、佐野元春は単身で渡米、1年後には現地のストリートミュージックに影響を受けた「VISITORS」でファンや世間を驚かせるのであった。

う、ふ、ふ、ふ/EPO (1983)

シュガー・ベイブ「DOWN TOWN」をカバーしたデビュー・シングルは「オレたちひょうきん族」のエンディングテーマに使われ、多くの人々の耳にふれることになった。この曲は資生堂のCMソングとしてヒットを記録し、翌年には高見知佳「くちびるヌード」、香坂みゆき「ニュアンスしましょ」といったやはり資生堂のCMソングに作家としてかかわっていくようになった。

卒業/斉藤由貴 (1985)

この曲は化粧品ではなく、明星食品「青春という名のラーメン」のCMソングであった。卒業して、相手が上京することによって生じる別れ。メールもLINEも無かった当時において、それはより決定的なものであった。卒業しても関係は続いていくというような理想論に対し、「守れない約束はしない方がいい ごめんね」と現実主義的に切り捨てる(作詞は松本隆である)。この年には他に菊池桃子、尾崎豊、倉沢淳美が同じく「卒業」というタイトルでそれぞれ別々の曲をシングルとしてリリースした。ついでにいうならば、私が旭川の高校を卒業したのもこの年である。

白いバスケットシューズ/芳本美代子 (1985)

オールディーズのガールズポップを思わせるような曲調とドラムスのフレーズが印象的な、芳本美代子のデビュー・シングル。当時、「ミュージック・マガジン」のインタビューか何かで、戸川純もこの曲を気に入っていると言っていたような気がする。内気なのかなかなか手を出してこない男が登場し、「赤いスイートピー」に少し似ているところもあるなと思っていたところ、やはり作詞は松本隆であった。

色・ホワイトブレンド/中山美穂 (1986)

資生堂のCMソングで、竹内まりやが楽曲を提供している。デビュー作のドラマ「毎度おさわがせします」での不良少女的なイメージは、この明るくポップな楽曲のヒットでかなり払拭されたような印象がある。

吐息でネット/南野陽子 (1988)

以前に日本の流行歌のリストのようなものを作って発表した際に、南野陽子は入っていないのかというようなご指摘をいただいたことがある。個人的にこの時期は日本の流行歌をあまり主体的に聴いていなかったことと、アイドルとしてもどこか美少女すぎてスキがないように感じられ、それほど注目をしていなかった。しかし、試しに楽曲を聴いてみると上品で良い曲がひじょうに多いし、一聴して分かるボーカルもだんだん魅力的に思えてきた。この曲はカネボウ化粧品のCMソングで、作曲の柴矢俊彦は元ジューシィ・フルーツのメンバー、妻の柴矢裕美が歌って大ヒットした「おさかな天国」も作曲しているようだ。

ROSÉCOLOR/中山美穂 (1989)

中山美穂で2曲目である。30曲しかないので出来るだけ多くのアーティストの曲を取り上げたいところなのだが、春を感じる日本のポップスというところでいうと、「色・ホワイトブレンド」もこの曲もどちらも捨てがたい。この曲は打ち込みのリズムが心地よく、とても上品で美しいメロディーと歌が魅力的である。個人的には小田急相模原から柴崎に引っ越す準備をしながらつけていたラジオで流れて良い曲だなと感じたのだが、現在は世田谷からまた柴崎に引っ越す準備の合間にこの曲のことを書いている。

チェリー/スピッツ (1996)

さて、前の曲からいきなり7年も空いてしまっている。この間、春を感じる日本のポップスは無かったのかというと、個人的に季節感をそれほど感じずに生活していた可能性がひじょうに高いのか、おそらく日本のポップスをそれほど積極的に聴いていなかったのだろうか。たとえば、小沢健二とスチャダラパーの「今夜もブギーバック」などは1994年の3月にリリースされているのだが、春のポップスという印象がそれほどはない。それで、スピッツのこの曲もそれほど積極的に聴いていた訳ではないのだが、いまとなるととても良いのではないかというひじょうに曖昧な理由で入れておくことにする。

イッツ・ア・ビューティフル・デイ/ピチカート・ファイヴ (1997)

「天使が微笑むと 恋ははじまるの」という訳で、春の恋の予感を感じさせる、明るくポップな楽曲である。とはいえ、個人的な感覚としては、日本の社会のムードが本格的に暗くなっていくのはこの年からというような印象があり、アニメやゲームがそれまでの音楽や映画などに代わってポップ・カルチャーの中心になるのではないか、というような気がしはじめた時期でもある。サブカルチャーの世界では鬼畜ブームのようなものもあり、うんざりしてはいたのだがやめられずに読み続けたりはしていた。そういった現実感覚とはかけ離れたところで鳴っているようなこの曲などにも、魅力を感じるには感じていたのではあるが。

明日、春が来たら/松たか子 (1997)

これも当時、熱心に聴いていた訳ではまったくないのだが、かなり後になってからふとしたきっかけでちゃんと聴いてみて、ふわふわしていてとても良いなと感じたのであった。しかし、そこにはキツい現実から少しだけ宙に浮いているような感覚はあった。これはおそらく、曲そのものというよりは、受容する側の私の精神状態に起因するものなのだろうが。

愛のしるし/PUFFY (1998)

積極的に熱心に聴いていた訳ではないが、この頃のPUFFYのあのゆるい感じはとても良いし、時代から必然的に求められていたのだろうな、というような気もする。この曲はスピッツの草野マサムネ(クレジットは草野正宗)が作詞・作曲、プロデューサーの奥田民生が編曲を手がけている。HMVかタワーレコードの大きなモニター画面でミュージックビデオを眺めていた記憶がある。出かけるといろいろなところにCDショップがあって、やはり寄ってしまった時によく耳にしていたような気もする。

桜の時/aiko (2000)

当時、有線放送などでJ-POPのヒット曲で聴いていただけだったのだが、音楽的にわりとしっかりしているのではないかというような気は、なんとなくしていた。

ね~え?/松浦亜弥 (2003)

作詞・作曲もプロデュースもつんく♂だが、編曲した小西康陽の色が強烈に出ている。マニアの人から見るとまた違うのだろうが、はたから見るまったくピチカート印のポップ・ソングに聴こえる。ボーカルの特性も、とても魅力的に生かされているように思える。

SEXY BOY~そよ風に寄り添って~/モーニング娘。(2006)

アルバム「SEXY 8 BEAT」収録の亀井絵里・光井愛佳「春 ビューティフル エブリデイ」とどちらにしようか迷ったのだが、今回はこれである。すでに国民的アイドルグループの名を欲しいままにしていたピーク時からするとセールスもかなり落ち着いていたが、「セクシー上上(うえうえ)」という中毒性の高いフレーズなど、ひじょうに良い。ミュージックビデオの最後のキメポーズで道重さゆみだけがうさちゃんピースをしているところも個人的には注目したいポイントである。

GIRL FRIEND/Base Ball Bear (2006)

「抱きしめた最悪の結末が 透明の笑顔のせいで綺麗だ」という訳で、春の恋をテーマにしたとてもカッコいいロックの曲である。

CHER.R.RY/YUI (2007)

au by KDDI「LISMO」のCMソングという説明がすでに果てしなく懐かしいのだが、「恋しちゃったんだ たぶん気づいてないでしょう?」のキャッチーさがまたたまらなく良い。当時も現在も実はよく知らないのだが、ポップ・ソングとしての強度には驚異的なものがあるあるような気もする。

シグナル/WHY@DOLL (2015)

今度は前の曲からごっそり8年も経っていて、この間、日本のポップスから春を感じたことは本当に無かったのか、と考えなくもないが、先に進んでいく。WHY@DOLLDである。この曲のリリース当時はまだその存在を知らないのだが、この翌年秋に「菫アイオライト」で知って、他のもいろいろ聴いていった。「公園通りを下りて行く 青に変わる」というのを渋谷に行く度、かなりの頻度でやっているだが、もちろんこの曲にちなんでいる。公園通りの渋谷ロフト出入口辺りで移動中のメンバーを見かけたのも、とても良い思い出。春らしい前向きで爽やかなポップスで、リーダーのちはるんこと青木千春の推し曲でもある。

桜ナイトフィーバー/こぶしファクトリー (2016)

いわゆる桜ソングがある時期から一気に量産されるようになった印象があるのだが、それがいつ頃だったかはよく覚えていない。元々はKANの楽曲をハロー!プロジェクトのアイドルグループ、こぶしファクトリーがカバーしたのがこれだったのだが、ポップ・ソングとしてイカしている上に、メタ桜ソング的でもある歌詞も面白い。

矛盾、はじめました。/Negicco (2016)

特に春をテーマにした曲という訳でもないのだが、私が結成してから12年以上が過ぎたNegiccoの音楽を初めて聴いて、急速にハマっていった時期にリリースされたのがこのシングルということで春の印象がひじょうに強い。初めて行ったリリースイベントは屋外だったのだが、昼間は温かかったものの夜になると急に寒くなった。客の間でラインダンスが急にはじまり、驚いたけれども楽しかった。ライブに満足したのと引っ込み思案の発動もあり、ネギ券という名の握手券は使わずに帰った。それはそうとして、曲の内容は女性同士の友情をテーマにしたお洒落ポップで、少なくとも私の周りでは女性受けがひじょうに良い印象がある。

桜 super love/サニーデイ・サービス (2016)

「きみがいないことは きみがいることだなぁ」という訳で、最近、この曲を取り上げるのは何回目だろうという感じではあるのだが、個人的にはこれまでに発表された全ての桜ソングの中で最も好きかもしれない。誰かを失ってしまうということには様々な度合いがあるとは思うのだが、それが極度にどうしようもない場合には実際にはいないけれどいるように感じるという境地に達する。しかし、それはおそらくちょっとどうかしているのだろうという自覚はあったが、この曲のおかげでアリなのだと思えた。

青空シグナル/RYUTist (2018)

新潟を拠点として活動し、とても良い音楽ばかりをやっているアイドルグループがRYUTistである。やわらかくも疾走感溢れる素晴らしい曲で、新潟で撮影されたミュージックビデオもとても良い。宇野友恵さんが洗濯物が乾く間に本を読むコインランドリー寿には聖地巡礼したのも良い思い出である。

春にゆびきり/RYUTist (2020)

RYUTistで2曲目、しかも最後に連発。しかし、やはりこれらはいずれも欠かせない。いわゆるコロナ禍以前に書かれていたというが、まるでそれを予見していたようである。予定されていてメンバーもファンも楽しみにしていたライブが中止になったは、ミュージックビデオではその会場の近くで夜に踊る。いつか大人になってしまえばおそらく忘れてしまうのだから、ゆびきりをしようというメッセージが心に響くし、多くの人々はそのような思いのために表現をしているのかもしれない、というようなことを考えさせられたりもした。

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