1996年のポップ・ソング・ベスト30

平日は明大前の広告代理店に通い、会社の人達とカラオケに行っては「渋谷系」の曲を歌わされたり聴かされたりして、週末には「BEAT UK」を録画したビデオを観てから渋谷に出かけ、「NME」の最新号を買ってCDや本を見たり買ったりしているうちに日が暮れた。この頃、日本のヒット曲をそれほど熱心に聴いていた訳ではないのだが、なぜかよく覚えていた理由は、幡ヶ谷の文華堂で借りるビデオを念入りに選んでいる間に店内で流れるのを聴いていたからではないかと思う。そういえばモーニング娘。が世の中に存在していなかった、いまのところ最後の年でもあったのだなと思ったりもする。

当時、リアルタイムで聴いていたり聴いていなかったり、いろいろな曲がこの年にもリリースされたのだが、ヒットしたりしなかったり、世の中に影響をあたえたりそうでもなかったり、個人的にかなり好きだったりそれほど好きでもなかったり、いろいろな要素を考慮して、現時点でベストだと思う30曲をランキング化してみた。当初は20曲で収めようと思ったのだが、どうしても足りずに30曲になった。個人的な趣味や嗜好がやはり強く反映してもいるため、客観性は著しく欠いている訳だが、それでもなんとなくやっていきたい。

30. ハミングがきこえる/カヒミ・カリィ

国民的人気テレビアニメ「ちびまる子ちゃん」のオープニングテーマ曲にこの「渋谷系」な曲が使われていたという事実が、もうすでにすごい。作詞:さくらももこ、作曲・編曲:小山田圭吾。個人的にはこの曲を収録したミニアルバム「LE ROI SOLEIL」(オリコン週間アルバムランキング最高9位)表題曲(作詞はモーマス)もかなり好きである。

29. Going Out/Supergrass

元気ハツラツなブリットポップバンド、スーパーグラスが音楽的深化を見せたニュー・シングル。オアシスとはまた別の角度からのオアシスからの影響が感じられる楽曲。この曲が収録されたアルバムは翌年まで出ない。

28. Setting Sun/The Chemical Brothers

テクノの中でも特にキャッチーなサブジャンル、ビッグ・ビートはブリットポップとの親和性も高く、この曲にはオアシスのノエル・ギャラガーがボーカルで参加して初の全英NO.1を記録した。

27. Slight Return/The Bluetones

ブリットポップブームはまだまだ続いていて、新しいバンドが次々と全英チャートにランクインしていた。それにしても、この曲の最高2位には少し驚かされた。とはいえ、実際に聴いてみるとそれにも十分に納得がいくクオリティーであった。

26. アジアの純真/PUFFY

奥田民生プロデュースによる女性2人組ユニットのデビュー・シングルで、作詞は井上陽水。歌詞の内容は何だかよく意味が分からないのだが、このどこかゆるめのムードが時代の感覚にフィットしていたようにも思える。日本の社会ではこの翌年あたりから、いろいろしんどさが本格的に露呈していったような印象がある。

25. Firestarter/The Prodigy

以前はもっと匿名性の高いテクノユニットだったような気もするのだが、この曲ではラッパーのキャラクターを前面に押し出してきて、イギリスではビデオを観て泣く子供達が続出という話を聞いたような気もする。この全英シングル・チャートで初の1位に輝いた。

24. そばかす/JUDY AND MARY

キュートな女性ボーカルに特徴があるロックバンドのオリコンNO.1ヒット。ボーカリスト、YUKIの存在は90年代ガーリーカルチャーをある面で象徴していたようにも思える。サニーデイ・サービス「東京」がオリコン週間アルバムランキングの29位に初登場した週、シングルランキングではこの曲が1位だった。

23. キャンディ・ハウス/THEE MICHELLE GUN ELEPHANT

ガレージ・ロック的な持ち味はあえて抑えめにしているように感じられるが、その良い意味での軽さが個人的にはツボにハマり、「ミュートマJAPAN」でビデオを観てすぐに好きになった。

22. ベイビィ・ポータブル・ロック/ピチカート・ファイヴ

ピチカート・ファイヴのレコードは1985年のデビュー・12インチシングル「オードリィ・ヘプバーン・コンプレックス」から買っていた(一時的に買っていない時期もあったが)のだが、紆余曲折あってこの頃には小西康陽と野宮真貴の2人組、「渋谷系」のポップアイコンと化しているようなところもあった。ポップスマニアが考えるところのパーフェクトポップに限りなく近いものであり、俗っぽい生活感を感じさせないところがとにかくすごいのだが、それを物足りなく感じる人達というのも確実に相当数いるようにも思える。

21. Fastlove/Geoge Michael

レーベルとゴタゴタがあって、移籍後のシングルで全英シングル・チャートで1位に輝いた。スムースでとても気持ちの良いダンス・ポップ。ビデオでヘッドフォンのメーカーがFONY(よく似ているPHONYは偽物の意味)と以前のレーベル(SONY)を軽くディスっているのが面白い。エンディング近くでは「フォーゲット・ミー・ノッツ(忘れな草)」歌謡に転じたりもする。

20. プライマル/ORIGINAL LOVE

1991年のメジャーデビュー時にはもっとスノビッシュな雰囲気もあったように思えるのだが、この頃にはすっかり大衆性を獲得し、この曲はオリコン週間シングルランキングで最高5位を記録している。素人が歌いこなすのはなかなか困難なことからも、田島貴男が類い稀な優れたボーカリストであることは明白である。

19. Born Slippy (Nuxx)/Underworld

イギリス映画「トレインスポッティング」のサウンドトラックに使われ、イギリスでは夏に大ヒットした。これもブリットポップムーヴメントの一環というふうに理解されてもいる。日本では冬に渋谷PARCOのすぐ近くにあったシネマライズなどで公開された。

18. Little Jの嘆き/GREAT 3

都会的でハイセンスなサウンドにのせて、狂気スレスレ致死量レベルの切なさを表現するバンドとして、当時の日本のポップスとしては個人的には珍しくリアルタイムでハマりまくっていた。これも「ミュートマJAPAN」でビデオを観て好きになった曲である。

17. No Diggity/Blackstreet feat. Dr. Dre & Queen Pen

ピアノのフレーズが特に強く印象に残るバックトラックがとにかく最高なのだが、ボーカルもラップもコーラスもすべてがカッコいいヒップホップR&Bな全米NO.1ヒット。

16. Don’t Wanna Cry/安室奈美恵

小室哲哉のプロデュースでヒット曲を量産するのみならず、アムラーと呼ばれるワナビーズを出現させるほどのファッションリーダーにしてポップアイコンとしても活躍。ゴスペル音楽の要素も取り入れたこの曲はJ-POP的なダンス・ポップに乗せて、ティーンエイジャーの心に潜む痛みにもリーチし、プライマルな祈りをマイルドに共有していたようにも思える。

15. 大人になれば/小沢健二

「球体の奏でる音楽」からの先行シングル。「渋谷系」の王子様的なイメージからは打って変わって、ジャジーで渋めなアレンジなのだが小沢健二以外の何物でもないという記名性が感じられる、これもまたJ-POPである。当時、渋谷のONE-OH-NINEにあった頃のHMVの「渋谷系」コーナーで聴いて次はこう来たかと驚いた記憶がある。

14. 愛の才能/川本真琴

好奇心と不安で張り裂けそうなティーンエイジャーの心情を表現したかのような歌詞は、リリース当時22歳のアーティスト自身によるもので、岡村靖幸が作曲・プロデュースを手がけたデビューシングル。

13. Goldfinger/Ash

ブリットポップブームのピークは、この年の夏に開催されたオアシスのネブワース公演だといわれているが、この時点ではアッシュのデビュー・アルバム「1977」が全英チャートで1位に輝くなど、希望に満ち溢れていたような印象もある。初期のパンキッシュな路線から急成長し、この曲はかなりメロディアスである。若さとアイドル的でもあるルックスもひじょうに魅力的であった。

12. If I Could Talk I’d Tell You/The Lemonheads

オルタナティヴ・ロック界のアイドル的な扱いを受けていたこともあるイヴァン・ダンド率いるレモンヘッズ。メンバー編成がいろいろ変わりすぎてよく分からないところもあるのだが、このアルバムを引っ提げての来日公演にはこの翌年に行ったはずである。いろいろあって少しあまりキラキラしていなくなった時期のアルバムだが、そのマイルドに枯れた感じとそれでも溢れ出るポップ感覚とのバランスがたまらなく良い。

11. Good Enough/Dodgy

ドッジーもまたブリットポップ時代に活躍したバンドだが、ただただ良質な楽曲をやり続けていて派手な印象はそれほどない。タワーレコード渋谷店のイベントに行ったら、ボーカルの人がひじょうに疲れた表情をしていたのが印象的である。全英シングル・チャートで最高4位を記録したこの曲にはインディー・ロックバンドらしからぬグルーヴィーさがあり、聴きやすさゆえにクロスオーバーに受けたような気がする。それゆえにあまり高く評価されていない印象もあるが、個人的には大好きである。

10. チェリー/スピッツ

スピッツのようにたとえばインディー・ロックのファンが聴いても良いと思えるようなバンドがメインストリームで売れまくるというのは、とても良いことだなと当時、感じていた。いま考えても、というかいまならばなおさらこれはすごいことだったのではないかと思わされる。この曲についていうならば、「『愛してる』の響きだけで 強くなれる気がしたよ」というフレーズがこれだけの素晴らしい楽曲にのっていること自体が奇跡的だともいえる。

9. 100 LOVE-LETTERS/原田知世

スズキアルトエポのCMソングだったようなのだが、オリコン週間シングルランキングでは圏外に終わっている。トーレ・ヨハンソンがプロデュースした「ロマンス」でヒットチャートに復活するのはこの少し後である。個人的には原田知世の曲の中で一番好きなのだが、鈴木慶一による歌詞は「二人でいるのは 日曜だけ」と絶妙に微妙な距離感をテーマにしている。トーレ・ヨハンソンはこの時点ですでにかかわっていて、「渋谷系」的なテイストも感じられる。

8. ハレンチ/岡村靖幸

天才・岡村ちゃんこと岡村靖幸だが、完全に混乱しているように思える。その混乱がそのまま曝け出されているのがこの曲の魅力のように思える。7年ほど前には「青春しなくちゃまずいだろう」と歌われ(「Vegetable」)、そこには確信めいたものもあったはずである。この年の流行語の一つとして「援助交際」が挙げられ、岡村靖幸は「俺はムード派だから どんな娘といてもこんがらがっているよ 違う×3 俺の好みは」と歌っていた。

7. Trash/Suede

ブリットポップが本格的に盛り上がる前夜、94年のはじめ頃までは間違いなくUKインディー・ロック界で最も注目されているバンドだったのだがいろいろあって、逆境からの再生的なムードも漂う新曲であった。しかし、そのスタンスがまたスウェードの特徴に合っていて、他のブリットポップバンドとも被っていなかったので良かった。

6. A Design For Life/Manic Street Preachers

バンドイメージを象徴するメンバーでもあったリッチー・ジェイムスの失踪後、3人組として再スタートしたマニック・ストリート・プリーチャーズの復帰第1弾シングルは全英シングル・チャートで2位という過去最大のヒットを記録し、それからイギリスの国民的ロックバンドとなっていくのであった。それにしても、労働者階級のアンセムとでもいうべきこのような曲があれだけ売れたというのはやはりすごいことだ。

5. サマー・ソルジャー/サニーデイ・サービス

夏をテーマにした曲ではあるのだが、リリースされたのは秋だったようである。ここ最近のブログ記事でも書いていたように、当時はサニーデイ・サービスの音楽を聴いていなかったので、知ったのはかなり後、しかも夏の真っ盛りだった。暑い夏の恋の気分をヴィヴィッドに描いた素晴らしい曲。

4. 情熱/UA

クラブ・ミュージック的な音楽を一般大衆化する上でわりと重要な役割を担ったのではないかと感じられる曲。下北沢のコンビニエンスストアや幡ヶ谷のレンタルビデオショップ(文華堂)などで聴くうちに、良い曲だなと感じるようになった。

3. Lovefool/The Cardigans

これの前のアルバム「ライフ」が日本でもあまりにも売れすぎて、ちょっと地味なのではないかと思われがちなところもあったような気もするのだが、この曲を収録した「ファースト・バンド・オン・ザ・ムーン」もとても良いアルバムだと思う。映画「ロミオ+ジュリエット」で使われてからまた人気が出て、最終的には全英シングル・チャートで最高2位のヒットを記録した。

2. Where It’s At/Beck

オルタナティヴ・ロックにフォークやカントリー、ヒップホップなどの要素も混ぜ合わせたハイブリッドなポップス。そういえば日曜日にはよく下北沢に出かけていて、雑貨屋でこの曲が流れていたことが思い出される。ピースフルな晴れた日の記憶に、この曲の実験的でありながらもどこかレイドバックした雰囲気がとてもよく似合っていた。

1. BABY BLUE/フィッシュマンズ

日本のロック&ポップスの名盤的な企画があると必ずといっていいほど上位にランクインしている「空中キャンプ」だが、当時のオリコン週間アルバムランキングの最高位は88位とそれほどたくさん売れた訳でもない。私が実際に聴いたのは少し後になってからだったが、レゲエやダブの要素を取り入れ、夢と現(うつつ)とが交差するような彼岸からの音楽のように思えた。リアルタイムで聴いていなかったので、この曲を聴いて当時を思い出すということは特に無いのだが、そういった思い出補正のようなものが一切入らなかったとしても圧倒的にユニークで特別な音楽のように思える。

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