ゲッツ「コンフリクト・オブ・インタレスト」について。

日本で「ゲッツ」とカタカナで表記すると、どうしても00年代にブレイクしたお笑い芸人、ダンディ坂野の一発ギャグを思い出してしまう。しかし、今回、取り上げるのは元々はゲットーという名前で活動していたが、ある時期からゲッツになったロンドン出身のラッパーである。今回のアルバムがメジャーレーベルからは初めてとなるが、そのキャリアは長く、ダンディ坂野が黄色いスーツを着て「ゲッツ!」と言っていた2003年から活動していて、現在は36歳である。

グライムといえばヒップホップとハウス・ミュージックを掛け合わせたような音楽と、大雑把にはいうことができるのだが、イギリスではひじょうに人気があって、ゲッツはそのこのサブジャンルが生まれて間もない頃から活動しているアーティストだということである。そのスキルの高さとリリックのクオリティーからアンダーグラウンドなシーンでは、早くから評価されていたようである。

ある時期にグライムのアーティスト達がその音楽性によりポップな要素を取り入れ、メインストリームでもブレイクするということがあり、これがこのサブジャンルのメジャー化にも繋がったのだが、ゲッツはこの流れに乗っていなかったのでものすごく有名になるということもなかったようだ。

アルバムとしては3作目、メジャーからは初となるこの「コンフリクト・オブ・インタレスト」がリリースされた訳だが、タイトルは「利益相反」を意味し、けして単純ではない人生の悲喜こもごもをあらわしているようにも思える。

一言でいって、ひじょうに音楽的に充実した作品である。ラップの技術やリリックのレベルはひじょうに高く、サウンドもバラエティーにとんでいて、熟練と新鮮さとの両方がものすごく良い感じのバランスで両立しているようにも感じられる。そして、これは過去のポップ・ミュージック史における様々な要素を参照した上で、それらを先に進め、行き着いた最新型を感じさせるようなところもある。

16曲、約1時間11分と最近のアルバムにしては収録時間も長いのだが、まったく退屈することがない。リリックの内容は自己紹介的であったり日常的な感情の移ろいを表現しているようだったり、一人の人物の中にある怒りや悲しみやメロウネスやアグレッシヴま側面など、多岐に及ぶ部分をヴィヴィッドに表現していて、そこに作品としての奥深さと充足感があるようにも思える。

音楽的にはグライムを基本としながらも曲によってはシティ・ソウルやGファンクの影響なども感じさせたり、留守番電話のメッセージや銃声、パトカーのサイレンといった効果音のようなものが文字通り効果的に用いられてもいる。また、ゲスト陣も豪華で、スケプタ、ストームジー、デイヴといった、UKグライム界のノリにノッているアーティストから、超メジャーどころではエド・シーランなども参加しているのだが、ゲッツとはまだ現在ほどメジャーになる以前から共演の経験があるということである。

特に現在のヒップホップやグライムの熱心なリスナーという訳ではなく、ポップ・ミュージックの新作として聴いているのだが、これはかなり良いのではないかと感じていて、年間ベスト・アルバムの有力候補レベルなのではないだろうか、というような気もしている。

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